抜け殻

青森県、まだ肌寒い4月。ショーパンをナマ足で履いて早朝の街を歩いたら、意図せず去年の9月を再現してしまった。やめてください。フラッシュバックは、なにも生み出さない。ひとをしあわせな夢から覚めたような気持ちにさせて、なにも与えないまま、感覚だけが少しずつ遠ざかってゆく。
あの日から6ヶ月が経った。わたしのからだも6ヶ月ぶん、老いた。時間は確実に、残酷に、流れてゆくのに、わたしの心はずっとあの日で止まっているんです。わたしは、ここにはいない。ずっと、あの日あの時あの場所で、二度と会えない人間を待ち続けている、のかもしれない。
狂わされてしまった。狂ってしまった。そういう言葉を使うならば、わたしはあの日からずっと、狂っている。別の時間を生きている。20年間生きてきたはずの自分とは死別した。じゃあいまのわたしはなんなんだ。ただの、抜け殻か。抜け殻なら、生きていたって、空っぽじゃない。
欲しいままにニンゲンの温もりを与えてくれる恋人様は、わたしのすべてを知りたいと言った。そのひとのすべてを知ったら、それはもうそのひと自身じゃないだろうか。すべてを知って、溶け合うように二人でひとつ、あーなーたーと、わーたし錯乱坊ーになるのか。それは、わたしが望んでいたことかもしれない。自分が二人いたら、自分を助けてあげられるのに、と常々おもっていたから。もっとも、それはもう恋愛とは別のものになってしまうけれど。
いま、どうやって、生きていますか?生きていたはずの自分を思い返す時間は終わった。いま、どうやって、生きていますか?無理矢理前を向いて過去を断ち切ろうとする時間は終わった。いま、どうやって、生きていますか?泣いて縋って、それでも抜け殻が息を吹き返すことは、もうないのだ。わたしは、いま、どうやって、生きているんですか?